お腹に溜まった内臓脂肪からは、血圧を高くしたり、血管のなかで血栓を作りやすくさせたり、血管を痛めたりするなどの物質が分泌されていることが分かってきました。こういう状態を放置しておくと、動脈硬化が進行し脳や心臓の血管疾患が非常に起こりやすくなるので今のうちから改善しましょう、というのがメタボリックシンドロームの目的です。
動脈硬化の悪化は、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血につながっていきますが、これらは“血管が詰まる”“血管が破れる”という病気なので発症は突然に起こり、かつ症状は激烈です。つまり、直前までは何の症状もなかった人が、ある瞬間に発症するということになります。死にかかわるという意味ではがんも同様ですが、がんはある瞬間に激烈に発症するというものではありませんので、その意味でメタボリックシンドロームはがんより怖いともいえるかもしれません。
メタボリックシンドロームは、多くは、食べすぎ、飲みすぎ、運動不足、喫煙といった、生活習慣のゆがみから起こってきます。糖尿病等になる前に、生活習慣の改善によって、そのゆがみを改善して、正常な血糖値に戻しましょう。健康な体に戻ることはそんなに難しい問題ではありません。ゆがみを確認するためには、どうしても血糖値や中性脂肪、コレステロールなどの数値を「測る」ということが必要になります。
みなさんも会社や地域などで健康診断を年1回受診していると思います。私は長年、産業医として社員の健康管理に携わってきましたが、社員の中には健診の数値を良くしようと思って、健診の1週間前からお酒の量を減らすなどをする方がいらっしゃいます。殊勝な努力は買いますが、この場合健診結果がその人の平均的な生活習慣を反映しているかというとそうではありませんよね(笑)。日ごろの生活習慣がどのくらい健康に影響を与えているかをみるのが健康診断ですから、正直に健診結果を見て、そして正直に生活習慣を振り返るという姿勢が大切です。
岡田斗司夫さんが、117kgの体重を67kgにまで減量成功した単行本『いつまでもデブと思うなよ』が50万部超のベストセラーになりました。これにより、一躍レコーディングダイエットという言葉が有名になりましたが、実際に彼は何をやったかというと、自分の体重を毎日決まった時間に計測する、もうひとつは食べたものをひたすら記録するということを行っただけでした。
つまり、測定と記録、測定と記録・・・の繰り返しだったわけですが、このダイエットの成功のポイントは、体重を測って(測ること)、食事を記録する(記録すること)、という持続こそが、結果として正確な食事内容の把握となり、自分への強烈なフィードバックとなって、直接的に食行動の変更をうながすことになったということなのです。 まさに“持続は力”ですね。じつは、この「測ること」と「記録すること」は、同様にメタボリックシンドロームを予防するうえでも大きなポイントです。
体重の変化は体重計に乗ればわかりますが、体の内部(内臓)の世界は、血液を測ってみないとその変化はわかりません。声にならないカラダ内部からの赤信号は定期的な血液検査によってのみ早めにキャッチすることができるのです。
ダイエットの成功が、「測ること」と「記録すること」で達成できたように、生活習慣のゆがみの改善も定期的な血液検査の習慣化によって達成できることと思います。今からでは遅いと思わず、さあ今から、食事、飲酒、運動など自分の生活習慣を振り返ってみましょう。